パーソナリティ(人格)障害について
| 私が最初に知ったのは、「人格障害」という言い方だった。しかし、最近では『パーソナリティ障害』(岡田尊司著〈PHP新書〉)という本も出ていて、「パーソナリティ障害」という言葉と「人格障害」という言葉は、同等に使われるようになっているようだ。 どちらの方がより多く使われているか、といったことを調べたことはないが、「人格障害」という言葉が与える印象と「パーソナリティ障害」という言葉が与える印象を考えるとき、日本語の特性からカタカナで表現した方がより軟らかく、受け入れやすい印象があると思う。 そこで、ここでは、本からの抜粋以外は「パーソナリティ障害」という言い方を使うことにする。 |
現代を語るキーワード |
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| 『パーソナリティ障害』(岡田尊司著〈PHP新書〉)の中で岡田氏は、「現代人の心が抱える生きづらさや、今、社会に起きている不可解な現象は、パーソナリティ障害について知ることで、よく理解できるようになる。パーソナリティ障害という観点なしで現代を語ることは、電気という概念なしに、雷やテレビの仕組みを説明することにも近い」と語っている。 また、『人格障害の時代』(岡田尊司著〈平凡社新書〉)では、「人格障害は、特別な一部の人だけの問題ではないのだ。現代人の誰もが、程度の差はあれ、抱えている問題でもある。人格障害という烙印を押し、排除するという視点では、問題は解決しないどころか、悪化させることになる。むしろ、現代人、あるいは現代社会が内包している、自分たち自身の問題として捉え、そのことに冷静な対処を行っていくことが必要なのである」と語っている。 |
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自らを助ける知識として |
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| ここでは、パーソナリティ障害という用語が正式に使われるようになったアメリカ精神医学会の診断基準DSMを紹介することによって、「パーソナリティ障害」をより専門的に知る手がかりになればと思う。 そして何より願うことは、パーソナリティ障害について知ることが、誰かを傷つける術になるのではなく、自分自身を救う術になって欲しいということだ。 最も新しい診断基準DSM−W(『診断と統計のためのマニュアル』第4版)では、パーソナリティ障害を大きくA、B、Cの3グループに分け、10のタイプに分類している。以下に10タイプの分類と、それぞれのタイプについて『DSM−W−TR精神疾患の分類と診断の手引 新訂版』(医学書院)より、紹介する。 《パーソナリティ障害のタイプ》 A群:オッド・タイプ(風変わりなタイプ) 〜非現実的な思考にとらわれやすいグループ〜 @ 妄想性パーソナリティ障害 A 統合失調質(シゾイド)パーソナリティ障害 B 統合失調症型(スキゾタイパル)パーソナリティ障害 B群:ドラマチック・タイプ 〜人目を惹きつける華やかさ、衝動性があり、自己顕示性や対人操作性が強い。 気分の変動も伴いやすいグループ〜 C 境界性パーソナリティ障害 D 反社会性パーソナリティ障害 E 自己愛性パーソナリティ障害 F 演技性パーソナリティ障害 C群:アンクシャス・タイプ(不安の強いタイプ) 〜神経質な傾向はあるが、穏やかで、一見、余りパーソナリティ障害的でないグループ〜 G 回避性パーソナリティ障害 H 強迫性パーソナリティ障害 I 依存性パーソナリティ障害 |
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●人格障害の全般的診断基準 |
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A 統合失調質(シゾイド)パーソナリティ障害 |
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社会的関係からの遊離、対人関係状況での感情表現の範囲の限定などの広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち4つ(またはそれ以上)によって示される。 |
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B 統合失調症型(スキゾタイパル)パーソナリティ障害 |
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親密な関係では急に気楽でいられなくなること、そうした関係を形成する能力が足りないこと、および認知的または知覚的歪曲と行動の奇妙さのあることの目立った、社会的および対人関係的な欠陥の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。 |
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C 境界性パーソナリティ障害 |
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対人関係、自己像、感情の不安定および著しい衝動性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。 |
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D 反社会性パーソナリティ障害 |
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A.他人の権利を無視し侵害する広範な様式で、15歳以降起こっており、以下のうち3つ(またはそれ以上)によって示される。 |
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E 自己愛性パーソナリティ障害 |
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誇大性(空想または行動における)、賞賛されたいという欲求、共感の欠如の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。 |
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F 演技性パーソナリティ障害 |
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過度な情緒性と人の注意を引こうとする広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。 |
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G 回避性パーソナリティ障害 |
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社会的制止、不全感、および否定的評価に対する過敏性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち4つ(またはそれ以上)によって示される。 |
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H 強迫性パーソナリティ障害 |
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秩序、完全主義、精神および対人関係の統一性にとらわれ、柔軟性、開放性、効率性が犠牲にさえる広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち4つ(またはそれ以上)によって示される。 |
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I 依存症パーソナリティ障害 |
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面倒をみてもらいたいという広範で過剰な欲求があり、そのために従属的でしがみつく行動をとり、分離に対する不安を感じる。成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。 |
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自分に正直な人は健康 |
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| 診断基準を見るとき、もしかしたら多くの人が、自分にも当てはまるのではないか、自分もパーソナリティ障害なんじゃないだろうか、という疑問を持つかもしれない。 『パーソナリティ障害』では、「パーソナリティ障害とは、バランスの問題であり、ある傾向が極端になることに問題があるということである。パーソナリティ障害かどうかのポイントは、本人あるいは周囲が、そうした偏った考え方や行動でかなり困っているかどうかということである。ただし、本人は案外困っていないことも少なくないので、いっそう周囲は困ることになる」そうだ。 パーソナリティ障害について、「もしかしたら、自分はそうかもしれない」と思う人は、もし病院で「パーソナリティ障害」だと診断されたとしても、それは、すでに克服できる力がその人にあるということだと思う。なぜなら、その人は自分のことをしっかり見つめる力を持っているからだ。 元アルコール依存症者で、現在日本全国に広がる自助グループを立ち上げた日本MAC(アルコール・薬物・AC・嗜癖障害リハビリセンター)の川上俊彦氏は、『ろばの塩〜依存症と生きる仲間たち〜』(発行:サンパウロ)の中で、「自分に正直になる能力が残されていれば必ず回復がある」と語っている。 「自分に正直になる能力」は、カウンセリングを学んでいても感じることだが、人として成長するための根底にある大事なものだと思う。 診断基準を見て、「自分もそうかもしれない、自分にも傾向があるのでは」と素直に思える人は、おそらく健康的な人だと思う。 |
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人に頼れる人は健康 |
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| パーソナリティ障害は、自己愛の病理を抱えているということを「自分の人生を生きるために」の項目の中でも書いたが、健康な自己愛と病的な自己愛はどのように区別するのか?という点について、『境界例と自己愛の障害〜理解と治療にむけて』(井上果子・松井豊著〈サイエンス社〉)から、パーソナリティ障害の理解と治療に大きく貢献したカーンバーグ(Kernberg,O.F)による自己愛の分類を紹介する。
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また同書では、「健康な自己愛をもつ人は、人に対して愛情を向けたり、人を信頼したり、人に頼ることができます。(略)病的な自己愛をもつ人は、根本的に人に頼ることができません。人を信じられないところがあり、愛情を感じることができません」と語っている。 |
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自分を大切にする能力 |
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| では、健康な自己愛を育てるためにはどうしたらいいのか?『パーソナリティ障害』の中で岡田氏は、「自己愛が健全に育つためには、親によって自己愛の欲求が適度に満たされながら、同時に、親の助力や支配を徐々に脱していくように導かれる必要がある。その過程が、余りにも急速すぎたり、逆に親が支配を続けたりすると、自己愛の傷つきが生じるのである。(略) パーソナリティ障害を生むもっとも大きな原因は、多くの場合、親(親の不在を含めて)だという現実がある。親が子供に与えてやれるもっとも大切で、かけがえのないものは、自分を大切にする能力だと思う」と語っている。 |
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自分を助ける術に |
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| この項では、パーソナリティ障害についてDSMや著作物より紹介したが、私が心から願うことは、最初にも書いたように「知ることが自分を助ける術」になって欲しいということだ。 あなたの周囲にいる誰かがパーソナリティ障害だとしても、その人自身がまず、生きづらい自分に気づき、自分は苦しいということを認め、自分のことをなんとかしたいと助けを求めなければ、周囲の人にはその人を援助したり、ましてやパーソナリティ障害をなんとしようということは到底できないのだ。 あなたは、周囲にいる自分を困らせる人がパーソナリティ障害かもしれないということに気がつくことで、生息域を広げようとしているパーソナリティ障害の罠にはまることなく、自分の人生を大切に生きて欲しい。本当に「自分を大切にする」ということこそが、パーソナリティ障害を遠ざけることだからだ。 そして、もし子育てを今、もしくはこれからしていく人であるならば、どうか「自己愛」について考え、自分の子供に「自分を大切にする能力」を授けていって欲しい。そうすることがまさに、パーソナリティ障害をこの世から消滅させていく地道で確実な方法だと思うからだ。 |
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参考文献:『DSM−W−TR精神疾患の分類と診断の手引 新訂版』(医学書院)
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